CASE.01 遺言

コラム
COLUMN
C A S E . 01 遺 言
 遺された妻の今後の生活が心配
年を重ねてくると、心配になるのが遺言作成です。
遺言には①自筆証書②公正証書③秘密証書の3種類があることや、それぞれのメリット・デメリットなどは、本を1冊買って読んでみたり、インターネットで調べたりすると書いてありますので、ここでは詳細については記載しません。

(1)遺言代用信託 


信託銀行等の商品の中には、「遺言者の生前中に財産の信託を受けて遺言者と取り決めた内容に従い管理し、遺言者の死亡後も引き続き、遺言者と取り決めた内容に従い財産を管理を行います。」というようなものがあります。例えば、「私の生前中は、私と妻の生活費として私が毎月20万円を受け取り、私の死後は妻に毎月15万円、長男に毎月5万円を財産が無くなるまで渡して下さい。」と取り決めをし、金銭を預けるというようなイメージです。

しかし、「遺言」は遺言者の死亡により効力が生じるはずです(民法985条第1項)。にも関わらず、遺言者の生前中にその「遺言書」のようなものにより、前述のような内容を実現できるのは何故でしょうか。

その答えは、「信託」です。正確には、「遺言代用信託」という信託契約を締結します。ご自身の生前中は、ご自身を受益者として設定し、ご自身の死後は妻等の相続人を受益者に設定します(信託法第90条、91条)。これは、遺言ではありませんので、遺言執行が不要です。遺言者(委託者)の死亡により、途切れることなく指定された次の受益者(妻等)が、契約内容に従い信託財産を受け取ることができます。

信託銀行を受託者(財産を預ける先)として契約する場合、管理手数料(報酬)が発生します。個人または信託業等の登録をしていない法人が報酬を受け取ってこのような管理業を行うことはできません。上記のようなケースでは、長男を受託者とするか、他の生い先の長い信頼できる親族を受託者とすることが考えられます。

(2)遺言信託 


(1)の遺言代用信託では、遺言者(委託者)の生前中の財産管理についても委託ができましたが、遺言信託は「遺言」ですので、遺言者の死後のことのみ設定できます。例えば、「私の死後は、妻に毎月15万円、長男に毎月5万円を財産が無くなるまで渡して下さい。」と書き記し、金銭を預けるというようなイメージです。 あとは(1)と同様です。(1)の「遺言代用信託」との違いは、①生前中の財産管理も託すかどうか②遺言執行が必要かどうかということになります。

(3)負担付遺贈 


(1)や(2)において、そもそもの遺言者の主旨は、「生前中は自分と妻の生活費に毎月20万円を充て、自分の死後は妻が困らないように、長男には必要な経費は相続財産から負担して妻の面倒をみてほしい。妻の死後、残った財産は長男が相続すればよい。」ということであれば、「私の財産をすべて長男に相続させる。ただし、長男は、財産をすべて相続することの負担として、遺言者の妻の面倒をみること。」といったいわゆる負担付遺贈の遺言を作成することもできます。この方法だと、「信託」という聞きなれない手法を取らずにすみますが、もし長男が遺言者の意に反して遺言者の妻の面倒をみることなく、金銭を浪費してしまったらどうでしょうか。妻と長男以外に相続人がいなければ、長男の行動を非難したり遺言の取り消しを家庭裁判所に請求したりする者もいないことでしょう。

(1)(2)の信託のスキームを使用した場合、受託者を監督する「信託監督人」を定めておくことにより、受託者が信託契約や遺言(信託)に違反する行為をすれば、信託監督人がその行為の差し止め請求をすることができます(信託法第44条、132条)。長男以外の親族に頼れる人がいれば、その人を受託者として設定することもできますし、信託監督人になってもらうこともできます。

(4)任意後見あるいは補助(法定後見) 


(1)の遺言代用信託では、契約の内容に生前中の財産の管理を定めることができることが特徴として挙げられました。死後のことは、とりあえず遺言を作成することに決めたが、現時点で既にご自身の身体の状態があまり良くなく、財産の管理をする自信がない場合、遺言代用信託以外に生前中の財産を管理してもらう方法はないかとなると、「任意後見」または「補助」(法定後見)制度があります。

任意後見は、公正証書による契約です。契約で取り決めた事務を自分の代わりにしてもらう権限を任意後見人与えることができます。元気なうちに契約をしておき、認知症などによりご自身の判断能力に支障がでてきたときには任意後見監督人が選任され、家庭裁判所の監督下で事務が行われます。

補助(法定後見)は、すでに身体だけでなく判断能力を欠く場合、家庭裁判所に対して補助人(後見人)の選任を申立てます。法定後見の場合は、ご自身の代わりにしてもらう事務は、任意後見のように柔軟に設定することができません。