CASE.02 事業継承

コラム
COLUMN
C A S E . 02 事 業 承 継
 生前中から後継者に会社の経営を移していきたい
ケース1と同様の事例で、オーナーが生前中から後継者(長男)に株を譲渡して会社の経営を移していきたい場合、もし今株をすべて譲渡してしまうと多額の贈与税が発生したり、長男の経営手腕にまだ少し不安があったりすることが考えられます。また、生前に株を贈与したことについて、オーナーの相続時に他の兄弟から特別受益を主張されることが考えられます。仮にオーナーが異なる意思表示をしていたとしても、他の兄弟が遺留分減殺請求を行った場合、特別受益にあたる生前贈与は、遺留分減殺請求の対象となってしまいます。

♦原則、遺留分減殺請求の対象となる贈与は、相続開始前1年間にしたものに限りますが(民法1044

1030

条)、特別受益にあたる贈与は、相続開始前10年間にしたものに限り遺留分減殺請求の対象となります(民法1044条第3項)。

(1)「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」による遺留分の特例の利用 


オーナーから会社の株式等を譲り受けた者は、オーナーの推定相続人全員との合意により書面で以下の内容を定めることができます。※

1、後継者がオーナーからの贈与等により取得した株式等について、遺留分を算定するための財産の価額に算入しないこと

2、後継者がオーナーからの贈与等により取得した株式等について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を合意のときにおける価額とすること

※平成28年4月1日から、この遺留分の特例を利用することができる後継者は、親族以外の者にも適用されるようになりました。

なお、この合意は、経済産業大臣の確認を受けた者が当該確認を受けた日から1か月以内にした申立てにより、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力が生じます(中小承継法8条第1項)。

(2)種類株式(拒否権付株式)の利用 


拒否権付株式は、株主総会において決議すべき事項のうち、株主総会における決議のほか、当該種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする種類株式です(会社法108条第1項8号)。会社経営上の重要事項について、当該種類株主総会の決議を必要とすることによって、事実上の拒否権を有することとなるため「黄金株」とも呼ばれる強力な種類株式の一つです。

定款を変更して拒否権付株式を発行し、オーナに割当てると、その後拒否権の付いていない普通株式を後継者に譲り渡したとしても、重要事項についてはオーナーの同意がなければ決定できないこととなり、経営を完全に乗っ取られる不安もなくなります。

(3)相続時精算課税制度の利用 


相続時精算課税制度とは、60歳以上の親または祖父母から推定相続人である20歳以上の子または孫に対して贈与する場合、あらかじめ所轄の税務署に相続時精算課税制度の選択届出書を提出することで利用することのできる制度です。

この制度を利用すると、オーナーが生前中に株式を贈与した場合、贈与時に贈与税を納め、その後オーナーが亡くなったときにその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額を基に計算した相続税額から、すでに納めた贈与税額を控除することにより贈与税・相続税を納税することになります。このとき、贈与税は2500万円まで特別控除されます。もし、後継者に株式を譲渡した後に株価が上がったとしても、相続税の計算時には贈与時の価額で課税されます。