CASE.01 事業継承

コラム
COLUMN

C A S E . 01 事 業 承 継
 遺言により後継者に株を譲りたい
現在、株式会社(A社)を設立して事業をしているが、自分も高齢になってきたので、後継者(長男)に経営を移すことを考えなければならなくなった場合、まずは遺言の活用が考えられます。

前提事例として、A社は取締役会を設置しておらず、A社の株式はすべてオーナーである遺言者が保有しているとします。その場合、もっとも単純に考えれば、「私の保有するA社の株式を、すべて長男に相続させる。」と遺言することにより、A社の経営権が長男へと移ることになります。取締役等の役員を選任したり解任したりするのも、株式の全部を保有していれば可能となります。

しかし、そう簡単にはいかないケースが考えられます。例えば、遺言者の子として長男以外に次男と三男がいる場合、A社の株式と会社資産をすべて長男に相続させる遺言をすると、ほかに価値のある財産がない場合、次男と三男は相続できる遺産がなくなります。すると、次男と三男から遺留分減殺請求がなされる可能性があります。そうすると、長男が遺留分相当額の弁償ができない限り、A社の株式と会社資産を兄弟間に分散せざるを得なくなります。

(1)株式以外の遺産がある場合 

後継者(長男)に相続させる株式や会社資産の価格と同等の遺産を、他の兄弟に相続させる旨の遺言を作成することにより、後継者に会社を譲ることができます。

(2)株式以外に遺産がない場合 


後継者(長男)以外の兄弟が、長男が会社を継ぐことに賛成している場合、遺言者の相続開始前にあらかじめ遺留分を放棄してもらうことができます。なお、遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です(民法1049

1043

条第1項)。

遺留分の放棄があらかじめ難しい場合、「種類株式」を活用することも考えられます。定款を変更して、発行済み株式のうちの2分の1を株主総会で議決権を行使できない株式(議決権制限株式)とし、長男には普通株式を相続させ、他の兄弟には議決権制限株式を相続させることが考えられます。

♦会社法108条(異なる種類の株式)♦
株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし指名委員会等設置会社及び公開会社は、第9号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。
1、剰余金の配当
2、残余財産の分配
3、株主総会において議決権を行使することができる事項
4、譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
5、当該種類の株式の取得について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
6、当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。
7、当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。
8、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会または取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会または清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
9、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役またはそれ以外の取締役。)または監査役を選任すること。